すごい!の一言です。
山崎豊子氏の小説は、主人公が不幸な転帰をとることが多くて、
今回もなんだかとても滅入る方向にすすんでいくので
読み進めることそのものがつらくなっていました。
だけど最終巻に至って、すべてを失った主人公が何とか再生の道をすすむことができたこと、
わずかながらも名誉が回復されたこと、ほっと救われる気分です。
ただ、最終的に家庭の崩壊は修復できなかったことが、ああ、そうなのか、と思いました。
お互いに大切に思い尊敬し合っている夫婦が、社会の環境によって、別々の人生を歩まなければならなくなったことを受け入れざるを得なかった結末に涙しました。
この話は、沖縄返還交渉中の外務省の機密漏洩事件の当事者となった新聞記者の話です。
そういえば、中学校の授業で社会の先生がとても熱っぽくこの事件に関して話してくれたことが記憶に残っています。報道の自由と職業上知り得た機密保持の義務について話題になった事件です。
その時の記憶によれば、確か新聞記者は無罪(報道の自由が認められた)、機密を漏らした外務省職員は有罪(国家公務員法の機密保持の義務違反)だったと思っていたのですが、
この本を読んで初めて知ったのですが、最終的には検察控訴審で新聞記者も有罪になったのですね。
その後の彼が、新聞記者を辞めざるを得なくなったことや、家庭が崩壊したことなども知りませんでした。報道の世界の罪深さと、時の政権が警察検察と手を組んで1人の報道記者を葬り去った国家権力の恐ろしさ、沖縄問題が戦後もまだ続いていることなど、丁寧な取材に基づいた社会問題提起はとても読み応えがありました。
いつも山崎作品で思うのは、主人公の奥さんが良妻賢母であること。
あんな奥さんになれたらいいなあ、といつも思います。
ただ、この作品ではむしろ主人公に感情移入しました。
天職と思い、やりがいをもって生き生きと働いていた仕事なのに、
続ける道を絶たれ、身を落として生きている姿が、読み進めるに従ってとてもつらく感じました。家族にそんなみじめな姿を見られ迷惑をかけたくなくて、たった1人行き先も告げずに去ってしまった気持ちは痛いほどよくわかります。
身近にそのやりがいのある仕事を続けている人がいて生き生きしている姿をみる場所では更につらいです。
それでも、同じ仕事にはもう就けなくても、もがき苦しみながらも一歩一歩別の道で再生しようとする姿に少しだけ元気をもらいました。
家庭の修復はできなかったことは残念でしたが。。。
私自身、流産した後の一時的な感情で辞めてしまった産科医の仕事を、忙しいけど充実したやりがいのある日々をもう二度と味わうことができないということに、鬱鬱としていて毎日過ごしています。
精神的な充実がなければ、生活はとてもつらいものになってしまいます。
何とか再生できる道が見えてくるとよいのだけど。。。私自身が今もがき苦しんでいるところです。